活動事例

障がいのある青少年に対する修学及び 就労機会創出の支援事業

実施報告:早稲田大学 スチューデントダイバーシティセンター
アクセシビリティ支援センター

全盲の理系学生への
修学支援

早稲田大学では、当財団の「障がいのある青少年に対する修学及び就労機会創出の支援事業」の第5期(2022年度)助成金を利用し、視覚障がいを持つ学生の修学支援の一環として高性能点字プリンターを導入されました。
きっかけは先進理工学部で学ぶ全盲の学生への修学支援です。

理系の高等教育において、日本のみならず世界的にもほとんど前例がない課題へのチャレンジは、視覚障がい者の理系学部への進学を後押しするものと期待が寄せられています。今回は、早稲田大学 アクセシビリティ支援センター 学生部調査役(学生支援担当)杉山 光氏と障がい学生支援コーディネーター 浮川 祐希氏に点字プリンターの活用状況や視覚障がい学生が抱える課題についてお話しを伺いました。

アクセシビリティ
支援
センター
(ARC)紹介

早稲田大学 アクセシビリティ
支援センター(ARC)

「早稲田大学障がい学生支援に関する基本方針」に基づき、障がいなどの理由により困難を抱える学生が他の学生と平等に学習機会を得られるよう、必要に応じた合理的配慮を提供します。

2006年に旧障がい学生支援室が設置され、2014年から身体障がい学生支援と発達障がい学生支援の2部門体制で業務を行ってきました。2023年12月には、多様な学生に対する学修機会を担保し、育成していくことを意味づけるため、組織名称を「アクセシビリティ支援センター(以下:ARC)」に変更して新たなスタートを切りました。ARCは、学内における修学上の合理的配慮の円滑な実施に必要な調整およびリソースの提供を行うほか、障がいについての理解を広める取り組みを通じて学びへの参加(「アクセシビリティ」の確保)を支援します。

障がい学生登録者数は158名(2023年4月現在)。約100名の学生による支援ボランティアと共に、障がいを持つ学生の修学環境をサポートしています。

写真:(左から)杉山 光 様、浮川 祐希 様
(左から)
杉山 光 様と、浮川 祐希 様

助成を申請
した背景

全盲学生の大学院進学を控え、
点訳教材の必要性が高まる

早稲田大学先進理工学部に全盲の学生が入学したのは2019年4月のことです。それまでも視覚障がい学生を支援するために点字プリンターを所有していましたが、仕様が古く印字に時間がかかるという問題がありました。とりわけ理工学系の教材には数式やグラフ・表などが必要で、古いプリンターでは印刷できない状況でした。

高性能な点字プリンターの購入を目的に助成金に応募した背景は、資料が専門化するにつれ、教材の点訳量も増加し、授業に間に合わせることが難しくなってきたためです。今まで点訳団体に教材の点訳から印刷までお願いして対応していましたが、この学生は大学院進学を予定しており、高性能な点字プリンターを導入して学内で印刷できれば、さらに高度なレベルの学習を支援することができます。より多くの点訳済み教材をよりタイムリーに提供しなければという思いがありました。

点字プリンター
を導入した効果

授業開始までに教材を提供

新しい点字プリンターの導入により、点訳団体から点訳済みのファイルを電子的に受け取り、数式や図表を含んだ教材も学内で高速に印刷することが可能になりました。これまでは、印刷された点訳済み教材を郵送で受け取り、急ぎの際は職員が直接取りに行き学生に手渡すこともありました。このリードタイムが削減できたことは大きなメリットです。何とか授業開始までに点訳済み教材を提供できるようになり、その効果を実感しています。

一方、点訳を依頼している点訳団体は人材不足の問題を抱えています。最新の点字プリンターの導入によりICTの活用が広がったことで点訳団体が行っていた印刷作業を学内で行うという、新しい役割分担が実現しました。この事例を点訳団体から他大学に紹介する動きにもつながっているようです。

早稲田大学が
目指すところ

“学びを支え、共に歩む”
障がい学生支援

2016年の基本方針の策定にあわせて、『学びを支え、共に歩む』というスローガンを掲げています。このスローガンは当時の職員、障がい学生、支援学生皆で考えて作ったものです。一方向での一方的な支援ではなく、職員と学生が共に支えあって、みんなで学んでいく。そうした姿勢を変わらず持ち続けていきたいと思います。各自の個性と能力を十分に発揮できる環境づくりを目指し、これからも学内外の支援者と力を合わせて障がい学生支援の取り組みを進めていきます。

視覚障がい者の理系学部への進学は今もなお少数です。特に全盲の場合は実験科目の履修に大きな課題があります。早稲田大学では、高性能点字プリンターの活用のみならず、大学をあげて全盲学生の実験科目の履修サポートを行ってきました※1これらの取り組みは、視覚障がい者の理系学部への進学者増加の契機になるものと期待されています。今後も障がい学生の修学支援体制を全学レベルで強化していく方針です。

全盲学生の実験科目の履修サポート:

※1  早稲田大学 理工学術院統合事務・技術センター編「勇気と覚悟 視覚障害学生の実験教育における技術支援」(早稲田大学出版部・2023年発行)に詳細がまとめられています。

助成金の種類

備品・アプリケーション

  • ロジャーフォーカスII
  • ロジャー セレクト
  • 点字プリンターで
    出力されたサンプル資料

    写真:ロジャーフォーカスII
  • 点字プリンター
    (購入数:1台)

    写真:点字プリンター